199516 ランダム
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ふらっと

ふらっと

Intermission 5

「デッキに注目!」
 シフォンの掛け声にブリーフィングルームに集まっていた、ベオグラードのMSパイロット達は敬礼してデッキ中央にいるロウ・シン艦長の言葉を待った。
「楽にしてよろしい。ただし、解っているだろうが、ここでの話は全て機密事項だ。その事を理解したうえで、詳細は中隊長より報告させる」
 そう言うとシン艦長はクワトロ中尉に引継ぎ、脇にそれた。
「現在、ジャブローを発進した連邦軍主力艦隊は、ここルナツーにて随時補給を受けている」
クワトロ中尉の言葉を受け、アシスタントスタッフとして同席していたリオ航海長が中央のメインパネルを操作する現在の宇宙における連邦とジオンの勢力図が映し出される。
「この艦隊は「チェンバロ作戦」の発動に伴い進軍を発動する」
リオ航海長がコンソールを操作すると、多目的モニターにジオン本国周辺の宙域図が画面に表示される。
「知ってのとおり、ソロモンと月のグラナダはジオン本国を攻める為の要となる基地だ」
既に本国周辺の防備も本国・地球間のルートも確立したジオンにとって、地球の裏側にあり、大した戦力もなく妨害も出来ないと見られるルナツーは、攻略する程の戦略的価値がないと思われている。連邦軍がどちらを攻めるにしてもグラナダかソロモンのいずれからも大規模な増援部隊が出撃して来る事が容易に想像できた。どちらを攻めるにしても牽制をする必要がある、増援部隊に後方を突かれたくない。
「今回の我々の初任務はベオグラードの運用訓練を含めた月面基地グラナダの動向を監視する事だ」
「それは今後、全軍でグラナダを攻めると言う事ですか?」
アービスが挙手してクワトロに質問するが、シン艦長がその質問に答えた。
「・・・現状ではそのことは問題ではない、まずは君達の連度を上げる方が急務だ、それを含めて明日より、我が艦は訓練航行を開始する、あらゆる戦闘ミッションを想定して備えて欲しい」
現状では進行作戦はグラナダかソロモンになるかは、左官位限の機密事項で知らせるわけにはいかなかった。
 シン艦長の言葉を補足する形でリオが話し始めた。
「ご存知のとおり、我々の装備は最新の宇宙機動専用のMSに加え、戦艦自体が今までの連邦軍の運用システムでは対応できません」
これからの作戦行動の為にも数度の慣熟飛行をし、兵装のテストも必要だ。新規のMSを急速に実践投入しなければならないのははっきり言って異常である。現状は秘密裏に建造されたMSを満足ゆくまでテストできる状況ではなかった。
その中でも基地指令のヴォルフガング・ワッケイン少将は、用意周到な人材を集める事により、訓練不足をカバーしようとした。クワトロ中尉の人選もそうだし、クワトロ以外のパイロットのシフォン達もこの異常な局面を突破できるであろうというスタッフであった。メカニック・マンやオペレーターにも同じ様な事が言えた。
「諸君らには「チェンバロ作戦」の発動までの時間があまり無いが、無事訓練を終えてくれると信じている、必ずや、ジオンを打ち砕き、我が軍に勝利を!」
シン艦長の言葉に皆が立ち上がり、最敬礼で答える。
「身命を賭して」
クワトロの後に続き、シフォンがブリーフィングの終了を宣言した。
「解散!!」
皆がブリーフィングルームを退室していく中、
「シフォン少尉」
クワトロがシフォンを呼び止める。
「何でしょう?」
「おやっさんは元気にやってるかい?」
 クワトロから意外な人物の名前が出たことにシフォンは驚いた。
「ご存知なのですか?!」
クワトロ曰く、戦闘機乗りだった頃に世話になったらしく、ベオグラードクルーのメンバー選抜の時にアキジ・コバヤシ整備班長の事を強く押したらいい。シフォンは「ナツカゼ」の修理の目処が付き次第、こちらに合流するとの事をクワトロに告げる。
「あの性格だからシフォン少尉も苦労してるだろ?」
「いえ、そんなことはありません」
アキジ整備班長は本当に気に入った人の機体しか整備しないはず、その事からもクワトロ中尉の人柄や、技量の高さが窺えるとシフォンは思った。
「君達に私も期待する部分が大きいのだ、頼りにしている」
 クワトロの言葉と差し出された右腕に答えるように、シフォンも右腕を出し、二人は握手を交わした。


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